映画『食卓の肖像』

戦後最大級の食品公害事件   「カネミ油症事件」のドキュメンタリー!

「美容と健康にいい」。そういう触れ込みの食品は、身の回りにたくさんある。もし、それらの食品に毒物が入っていたとしたら…。今から40年以上前、現実にそういうことが起こった。森永ヒ素ミルク事件などとともに戦後最大級の食品公害事件と言われている「カネミ油症事件」である。

1968年、福岡、長崎をはじめ、西日本一帯で、食用油、カネミライスオイルを食した人たちが次々に健康被害を訴えた。症状は、大量の吹き出物、目やに、脱毛など、多様なもので、苦しむ人たちの姿が報道され、世間を震撼させた。被害者は14000人以上と言われている。

『食卓の肖像』は、この「カネミ油症事件」の被害者の人達を10年間かけて取材したドキュメンタリー映画である。

忘れられていた事件の被害の全貌を10年間の取材で明らかに

自治体や企業のPRビデオの仕事をしていた金子サトシ監督は、2000年夏、この食品公害事件の被害がいまも続いていることを知り衝撃を受け、被害者たちに聞き取りを始めた。

事件発生から長い月日がたち、社会の人々の記憶からこの食品公害事件のことはすっかり忘れられていた。しかし、被害者たちは、様々な全身症状でずっと苦しみ続けていた。そして、子どもや孫といった次世代にも健康被害があった。カネミライスオイルの中にはPCBとダイオキシン類が複合汚染で混入していて、それが未知の被害を引き起こしていたのだ。

この映画は、被害発生当時のことや症状の変遷について丹念に聞き取りし、甚大な被害の実態、全貌を明らかにしている。

 

未曾有の事態の被害者たちはいかにして生き抜いて来たのか

さらに、カメラは食卓や畑など、被害者たちの日常生活の場にまで入りこみ、いまを生きる人々の姿を穏やかな視線で見つめる。また、油症被害そのものだけでなく、仕事、結婚、出産など、被害者たちの「その後の人生」のことも盛り込んでいる。

特に、食品公害の被害者であるからこそ、彼らは家族の「食」に気をつかい、自然食や有機栽培などを求めて生きている。そうした姿から、誰にとっても身近な「食の安全」の問題についても提起している。

未曾有の食品公害の被害者たちはいかにして生き抜いて来たのか。食品公害の被害者だからこそ、家族の「食」をいかにして大切に守ってきたのか。

被害を告発するだけでなく、被害者たちの生きざまを浮かび上がらせた本作は、キネマ旬報2011年度ベスト・テン文化映画第10位に選出されるなど、各方面から高い評価を受けている。